23andMe続報

23andMeがサービス停止命令を受け、民事訴訟も行われて…となったら、日本で類似のベンチャーを考えていた人たちは軒並み「止めておこう」となってしまうのだろうか。つまらないことである。私自身は自分の遺伝情報にとくに興味がないし(平均よりもない方だろう)、遺伝子ビジネスがどんどん発達した方がよいとも思っていない。しかし、世の中の活気というのは、いろんな人がいろいろなことを試してみることで生まれると思っているので、自分の興味関心にかかわらず、何かをやろうとしている人は応援したい。秩序ばかりあって活気がない世の中なんて面白くない。

そういうわけで、23andMeのサービスは何がどう問題視されたのかを確認しておきたい。規制の体系についてもより詳細が分かりました。

この種のサービスでは、通常の検査と同様の臨床的意義が期待できないのはある程度やむを得ない。その場合、結果の意義が限定的であることを丁寧に説明し、医師等の専門家のサポートをシステムの中に上手に組み込むことが大切だということかな、と私は受け取りました。 

(1)経緯
〇23andMe等のDTC遺伝子検査は当初「antiquity determination」(あなたの祖先を明らかに、みたいなことか?)等を謳ってマーケティングを行うなど、ビジネスモデルがはっきりしなかったので、FDAは様子を見ていた。
〇その後、特定疾患の罹患可能性や薬剤応答性など明らかに食品医薬品化粧品法(the FD&C Act)における「device」のClass3としての規制対象となるサービスを宣伝するようになったため、必要な承認を得るよう指導を開始した(class3に分類されるのはおそらく検査結果が不正確であった場合のリスクに「不必要な予防手術」などの重大な健康被害が含まれるためと思われる)。
〇検査結果の正確性、信頼性、臨床的有意性が販売承認の要件であるが、FDAとしては、これらのサービスの多くは、臨床的妥当性が確立されていない検査情報を提供しているという心証を持っている。
〇FDAはまず2010年5月10日にPathway Genomics Corporation(PGC)に対してサービスを行うには事前承認が必要である旨の書状を送り、PGCはサービスを停止した。
〇2010年6月10日には、同様の書状が、Knome, Inc 、Navigenics、deCODE Genetics、23andMeにも送られた。
〇書状はIllumina社にも送られ、"for research use only"の試薬および装置(したがって臨床検査としての使用についてFDAの承認を得たとはいえないもの)をDTCによる臨床応用のために提供している点を問題視(提供するなら承認を得ろ、ということであろう)。
〇FDAはこれらの業者と話し合いを続け、分析的妥当性及び臨床的妥当性を証明する資料の提出を要求していた。(以下、他の業者のことは分からないので23andMeのみ)
〇23andMeはこれらの資料を提出しないまま、サービス範囲を拡大し、いっそう積極的なマーケティングを開始。
〇停止命令。
〇23andMeは、疾患等の健康に関わる分析結果の提供をストップ。顧客には祖先に関する情報とローデータのみを提供している。顧客の返金要請にも応じている。

(2)臨床検査に関する規制の概要
〇Device(日本語では「医療機器」と訳されるようだが少し違和感があるのでつぎの法改正のところ以外は英語のままにします)は、1976年に明示的に連邦食品医薬品化粧品法(以下the FD&C Act)の対象となった(具体的には、同年の医療機器修正(Medical Device Amendments(MDA))による)。
〇前回書いたとおり、deviceはリスクに応じてclass1、2、3のいずれかに区分される(判断するのはFDA)。IVDs(体外診断用機器in vitro diagnostic devices)の場合、判断の根拠となるのは、主として不正確な試験結果が検知されない場合に患者に対して生じうるリスクである。具体的にはこんな感じ。

Class 1:
・低リスクのカテゴリー。ある種の試薬や装置、補完的IVD試験の多くがこれにあたる。
・補完的試験の場合、判断は他の試験結果に依存するため、不正確な結果は通常容易に検知され、修正されうる、ということで、リスクは低いとみなされる。
・ほとんどのClass 1機器は販売前審査(premarket review)の対象外である(「ほとんどの」というのが気になるがよく分からない)。
・例えばclass 1にあたる黄体ホルモン検査は、誤った結果によって妊娠の遅れをもたらしうるが、直接に患者自身を害するおそれは小さい。
(・ここはまだ調査中だが、おそらく届出だけが必要で、事前審査は受けない。)

Class 2:
・中リスクのカテゴリー。化学試験や免疫試験のような標準的な臨床検査がこれに属する。
・ほとんどのclass 2 deviceは販売前審査(section 510(k) of the FD&C Act。FDAが届出に基いて審査する)が義務づけられる。
・例えばsodium testは誤りが検知されず誤った結果に基づいてsodium levelを改善するための治療が行われると生命を脅かすリスクをもたらしうる。このようなものは、class2 にあたる。

Class 3:
・最高リスクのカテゴリー。潜在的に合理的な範囲を超える疾患・傷害リスクを有するものがこれにあたる。
・例えば、C型肝炎ウィルステストにおいて誤って「感染なし」の結果が出た場合、適切な治療が与えられない結果肝不全を起こすリスクが存在する。さらに、感染を知らないことにより患者が感染源として疾患を拡大するリスクもある。
・販売前承認(premarket approval)が義務づけられる。

〇IVDsの多くはclass 2か3。FDAには、販売前の審査や承認に加え、販売後審査、有害事象のモニタリングの権限、深刻な健康被害が生じた場合にはリコールを命じる権限もある(the FD&C Act)。

〇IVDsの規制は、食品医薬品化粧品法のdeviceとしての規制とCLIAによる施設認証の2つが担っている。

〇CLIA(1988年の臨床試験所の改良に関する修正(the Clinical Laboratory Improvement Amendments of 1988:CLIAも食品医薬品化粧品法の修正なのだ…知らなかった)に基づく審査プログラムを運営するのはCMS(the Centers for Medicare and Medicaid Services)。CMSが認証を担当する機関を承認し、CLIAが認証基準を定め、認証業務はそれらの研究機関が行う仕組み。

〇臨床試験そのものの安全性や効果、質の審査はFDAが、施設のクオリティコントロール等の審査はCLIAに基づいて、という分担。

〇他に関連しうる規制として、連邦公正取引委員会法(the Federal Trade Commission Act(FTCA)に基づく連邦公正取引委員会(FTC)の審査システムがある。FTCAのsection5は取引における不公正ないし偽計を伴う行為(unfair or deceptive acts or practices)を禁止、Section12は食品、薬品、devicesサービス、化粧品の虚偽広告を禁止する。FTCは虚偽ないし偽計的広告については強制的なアクションを起こすことができる。

(3)遺伝子診断についてのFDAの対応
〇遺伝子診断は、疾患等の診断、治療、予防等に用いられる場合はdeviceとしてFDAの規制を受ける。心疾患リスクを判断する場合はdevice、祖先を明らかにする場合はdeviceではない。

〇業者が遺伝子診断用のキットを開発して複数のラボに提供する場合、当局は製品(キット)に対して規制を及ぼす。

〇これに対し、医療機関の検査室等が自身で構築した手法で当該ラボでのみ試験を行うLDT(laboratory-developed test)の場合、データの解釈の方法とか説明の仕方なども勘案して、不正確な結果がもたらすリスクの大きさを元にして規制を行う。

〇FDAはLDTsに対しては、1976年のdevice law成立以来、規制権限を行使していなかった。当初、LDTsは概して低リスクであったため、とされる。希少疾患の有無等比較的単純な内容であること、解釈に携わるのが専門家であること、同一組織内の医師がその結果を利用すること、等により、FDAが介入する必要性がないと判断されていたようである。

〇しかし、FDAは近年LDTsの性格が劇的に変化していると受け止め、介入の必要性を認識している。主な変化としては、
―生活習慣病等の高リスクであるが一般的な疾患や症状の評価に用いられる。
―最新の(ときには未確立の)科学的発見が診断の有効性を基礎づけるものとして利用される。
―結果の分析過程が複雑で、専門家による解釈ではなくソフトウェアによる自動化された解釈が行われる。
―FDAの承認を受けた代替の試験が利用できる場合にも行われることがある。
―患者が治療を受ける医療機関と無関係の商業的なラボで行われることが多い。

〇FDAは近年のLDTsには以下のような問題があると認識している。
・誤ったデータ解析
・臨床的意義の誇張
・不正なデータ操作
・トレーサビリティの欠如
・稚拙な研究デザイン
・受け容れがたい臨床検査能力(unacceptable clinical performance)

〇諮問委員会の答申(2001年、2008年)もあり、現在ではすべての遺伝子検査につき、FDAがその分析的妥当性、臨床的妥当性の審査に関わるべきであると考えられている。

(4)今後の見込み
〇23andMe側は、「分析的妥当性、臨床的妥当性に関して証拠が提出されていないこと」が問題で、「妥当性がない」わけではないので、今後FDAを納得させれば全面的にサービスを開始できる、という態度のようである。
〇しかし、ある専門家は、23andMeのサービスは分析的妥当性は十分備えているが、臨床的妥当性は「poor or terrible」であり、FDAが納得する見込みはないとしている。
〇同じ専門家は、こうしたサービスでは解釈がすべてであり、23andMeの問題点は消費者が解釈に必要な情報や知識を与えられていない点にあるとして、FDAは近日中に現在よりはるかに多くの専門家を関与させる方向でのアプローチを要求するかもしれないとしている(この人の主張でもあると思われる)。

【参考】
・FDAの担当者がDTC(Direct-to Consumer Genetic Testing)について米国下院で報告した内容(www.fda.gov/newsevents/testimony/ucm219925.htm)。
・http://venturebeat.com/2013/12/07/23andme-remains-defiant-despite-fda-issues-we-are-not-going-anywhere-exclusive/

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